大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和51年(行ト)18号 決定

抗告人 出光興産株式会社

右代表者代表取締役 石田正實

右代理人弁護士 真子傳次

出射義夫

梶原正雄

久保田敏夫

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

抗告代理人真子傳次、同出射義夫、同梶原正雄、同久保田敏夫の抗告理由について

所論は、まず、即時抗告を許さない過料決定は憲法一四条、三一条に違反すると主張する。

しかし、審決違反に対し東京高等裁判所のした過料の決定につき違憲を理由とする場合のほかは抗告が許されないものと解しても、なんら所論憲法の規定に違反するものでないことは、当裁判所が抗告人に関する昭和五一年(行ト)第一九号事件の決定において説示するとおりである。論旨は採用することができない。

次に、所論は、公正取引委員会が本件審決主文二項に基づき同委員会の承認しうる周知徹底方法として示した文案は、抗告人において現に刑事訴追を受けている違法な価格協定をしたという事実を抗告人に自認させる内容のものであるから、過料の制裁をもって右文案に従うべきことを強制するのは憲法三八条一項に違反すると主張する。

しかし、本件審決が、抗告人に対し、違法な価格協定の破棄を命ずるとともに、該命令に基づいて抗告人のとった措置を取引先及び需要者に周知徹底させるべきことを命じている趣旨に即して考えれば、公正取引委員会の前記文案は、抗告人のいかなる行為が違法とされたのかについて審決の内容を具体的に表示させるための必要に出た文言であって、これにより、抗告人が違反行為を自認したことになるものとは解されない。したがって、論旨は前提を欠き、採用することができない。

また、所論は、本件審決の主文が不特定であるから、その履行を強制することは違憲であると主張する。

しかし、本件審決主文は、認定された違法な価格協定の実効性を失わしめるため、違反行為の存在とその具体的内容を明示させ、それを破棄した旨を周知徹底させるべきことを命じているものと解されるのであり、その具体的方法の特定については公正取引委員会の承認を受けることとなっているが、周知徹底を命じた趣旨、目的と社会通念に照らせば、右承認につき同委員会の有する裁量にもおのずから一定の客観的基準が存在するものというべきであるから、それが審決主文に示されていないからといって、主文が不特定であるとすることはできない。論旨は前提を欠く。

更に、所論は、審決の取消訴訟が係属中に審決違反に対して過料を科することは憲法三二条に違反すると主張するが、右過料決定によって審決取消訴訟の帰すうが左右されるものでないことはいうまでもなく、また、後日右訴訟の判決によって審決が取り消されたときは、民訴法四二九条、四二〇条一項八号により過料決定に対して再審の申立をすることができるのであるから、論旨は前提において失当である。

その余の所論は、単なる法令違背の主張にすぎず、特別抗告適法の理由とは認められない。

よって、本件抗告を棄却することとし、抗告費用は抗告人の負担として、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 大塚喜一郎 裁判官 岡原昌男 裁判官 吉田豊 裁判官 本林讓 裁判官 栗本一夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例